2007/08/04 (Sat) ガラスに映る空の青 8

(創作シリーズ:BL。知らない人や分からない人はご注意。)

 身が竦む。恐怖からじゃ、ない。どうして、こんなに鳥肌が立つのかもわからない。……わからない。
「……答えてくれる?」
 斉藤は余裕の笑みを貼り付けたままだ。負けている、と思った。俺は、こいつに。
「妹は、居る。………それだけだ」
「そう」
 それで全て判った、とでも言う様に、斉藤は満足そうな顔を見せて歩き出した。階段へと続く扉に向かって。俺に背を向けて。
「………あぁ」
 何かを思い出したように、斉藤は振り返った。その目に射抜かれるような気がして、びくん、と肩が震えた。斉藤は、そのまま、笑ったまま、至極冷静な声で言った。
「陸を陥れようとしてるなら、俺が赦さないから。…それだけっ」
 ぴぃん、と、張り詰めた…気がした。そいつはそのまま扉を開いて、扉の向こうへ消えた。俺はそれを充分に見送ってから、…ぺたん、とその場に座り込んだ。
 しばらくは、その場に縫い付けられたように――動くことは、出来なかった。
 
 俺は、一体何を望んでいるんだろう。零緒のフリまでして、こんな思いまでして。
 何が、欲しいんだろう。
 ………あいつが? 嘘に塗り固められた、この体と心は。意味もわからず強く強く惹き付けられる。何なんだろう、この気分は。この、気持ちは。
 沢山の感情が入り混じって流れて廻って滴ってぐちゃぐちゃにかき混ぜられて、そして。
 優しい手が、俺を撫ぜてくれるのを。

 知っているんだ、俺は。


 〈第九番へ〉
 

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2007/06/30 (Sat) ガラスに映る空の青 7

(創作シリーズ:BL。知らない人や分からない人はご注意。)

「随分と猫を被ってたみたいだね」
 斉藤は、胡散臭い笑みを貼り付けたまま俺に笑いかける。…余裕さでは、斉藤のほうが何枚も上手だ。俺のは、脆くて、脆すぎて、突かれれば直ぐにでも壊れてしまうだろう。余裕ぶるほど大変なことは無い。
「さぁ、じゃぁ早速答えてもらおうかな。まずは、ひとつめ」
 頷いた。
「キミは、なんでわざわざ公衆トイレで学ランになんか着替えたのか。着替えるのなんか、家に帰ってからでもいいだろう? これは俺の予想だけど、……陸が居るのを知ってて、わざとおびき寄せた。…なんてのは、どうかな」
 核心、だ。唇を噛む。こいつは、きっと全部気付いてる。斉藤は、腕を組み、さっきとは違う、真剣な眼で俺を真っ直ぐ見据えている。真実を求める、眼。鋭い眼。この瞳からは、……きっと、逃れられない。
「…そう取ってくれて、構わない」
「そう? じゃぁ、ふたつめ。ひとつめを仮定にするとして、話を進めようか。キミが陸をおびき寄せたのは何のためか。どういう感情だかは知らないけど、興味を持ったことは確かだ。興味を持って、そして、おびき寄せて、近づいた。そうすると、キミは何故陸に興味を持ったのか。いや、言い方を変えたほうがいいかな。この学校に来てそんなに間もない時点で、こんなに特殊な方法であいつに近づくほど、強い興味を持つ時間があったか? ……その答えは、こうだ。キミはもっと前から妹ちゃんと入れ替わってて、その間に陸に強い興味を抱いた。」
 首肯。
「そうなると、もっと考えを進めることができる。もっと、深いところまで」
 斉藤はそこで一旦口を止めると、ポケットをまさぐり、タバコとライターを取り出した。そのうちの一本を咥えて、火をつけて、吸う。そうして、長く長く煙を吐き出した。
「…不良」
「悪いね、煙苦手?」
「そういう意味じゃない」
 言うと、斉藤は今までにないほどふっと優しい笑みを浮かべた。その笑みに、一瞬だけ怯む。斉藤は、少ししか吸っていないそれを、どこから取り出したのか携帯灰皿に押し付けて、仕舞った。再び口を開く。
「そこまで考えちゃうと、もっといろんな予測を立てることが出来る。……例えば、ストーカーは実在するのか? ………とか。」
 びくり、と身が竦んだ。斉藤はそれを横目で見て、俯いた。
 そして。

「妹なんて、実在するのか? ……とか。」


〈第八番へ〉
 

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2007/05/20 (Sun) ガラスに映る空の青 6

(創作シリーズ:BL。知らない人や分からない人はご注意。)

 浅見がなんだかお気楽な男子――斉藤と言ったか――に連れられていくのを見た。あいつのことはよく知らないが、浅見と仲が良いのなら…浅見は、話してしまうかもしれない、と思った。
 浅見は気が動転していたからまだしも、冷静な状態の人間がこの話を聞くとなれば、絶対、何かしら気付くだろう。しかも、斉藤は見るからにそういうことに鋭そうだ。
 俺の話の矛盾点。
 気付いていないのは、きっと浅見だけだ。
 浅見のことは、前から知っていた。興味があった。ただ、それだけのこと。この興味を、この気持ちを、何と呼ぶのかは分からない。
 友達になりたいと思ったわけじゃ、なかった。俺のこの冷めた性質から言えば、必要以上に他人と馴れ合うのは好まないからだ。俺は、レオが居ればそれでよかったのだから。
 だからこそ、この、気持ちが分からない。よくも知らない他人に執着している、今の自分が。よくわからないから、近づこうと思った。もっと知って、もっと執着して、そして。
 ――それで傷ついたとしても、俺はきっと惜しまないと思うから。
 そんなことを考えながら、うとうとと、俺はまどろみの中へ落ちていった。

 ………。

 「高木さん、ちょっといい?」
 やっぱりと言うか、胡散臭い笑顔を貼り付けたその人物に、俺は呼び止められた。誘導されるままに、屋上への階段を上がる。何を聞かれるか、何を言われるかってのは、大体の見当がついていた。
 怖くは無かった。
 ただ、壊されたくなかった。
 まだ知らないものを、知る前に壊されるのだけは、イヤだった。
 屋上の扉が開く。開いた瞬間、勢いの良い風が俺と斉藤を揺さぶった。良い風だねぇ、などと笑いながら、斉藤は伸びをした。
 屋上の扉を閉める。
「さぁて、早速だけど、本題に入ろうか。昼休みって言ってもそんなに時間は無いだろう?」
 頷く。
「陸から話はきいてる。訳があって女装してるってのも、わかった。けどね、ちょっと、気になることがあって」
「わかってる」
 わざと地声を出して見せる。正体を知ってる人間を相手に、女声を使うのも気が引ける。今ばかりは、演技もほどいた。
「俺の話に矛盾でもあったんだろう?」
 言って、笑って見せた。余裕ぶって見せた。
 本当は、…――余裕なんか、何も無いくせに。


〈第七番へ〉
 

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2007/04/21 (Sat) ガラスに映る空の青 5

(創作シリーズ:BL。苦手な人・解んない人は見ないようにー。)

「いっよぅ! 陸! 今日もご機嫌麗しゅう〜?? ………とと、何で高木さんと一緒? いつのまにそんな仲に! お母さんはお前をそんな子に育てた覚えはありませんよー! で、どこまでいった? どこまでいった? まさか俺に秘密にするなんてこたねーよなぁ三年来の親友!」
 斉藤(いつき)はまず教室に入ってきた僕を見ると、ふと横に居るカズイに視線を落とし、ご機嫌なテンションで開口一番にマシンガントークを繰り広げた。ちなみに、陸というのはわかっているだろうけれど僕の名だ。浅見陸(あさみ りく)
「今日も朝から元気だなぁ…お前さぁ、疲れない?」
「疲れないっての! たったこのくらいの量を喋るだけで疲労するんなら世の中疲労困憊じゃねーかよ」
 意味がわからない。どうでもいいけど教室の前の扉で引き止めるのはやめてもらえると嬉しい。気になって横を見やると、樹のマシンガントークにあてられたのか、横のカズイがかなり引いた顔で目の前にいるこの男を見ていた。気持ちはわかる。
「えぇっと、じゃぁ、浅見くん。またあとで」
「……うん」
 いそいそとカズイが席に着く。声色を思いっきり変えられたので一瞬本当はレオの方なんじゃないかと思ったほどだ。
 カズイが席に着いたのを確認すると、待ってましたとばかりに樹が身を乗り出してきた。鼻先に樹の顔がある。
「で、どーよそこんとこ。ついにチェリーボーイ卒業?」
 樹はこの軽さと顔の良さで大変モテる。女の子には不自由していないようで、僕と知り合ってからも彼女が途切れたことは無かった。軟派な男なのだ。
「すぐそーいうコト言うのやめろ、はしたない。カ…高木さんにはちょっと理由があるんだよ。……その理由とやらを言いふらしたりしないなら、話しても良い」
 樹は、気になりだしたら止まらないタチだ。適当にはぐらかしたりしてもしつこく訊いてくるに決まってる。三年一緒に居ればその辺はなんとなく掴めて来るものだ。だからこれは、先手。樹がこういうことを言いふらしたりするようなヤツではないとは知っている。いくら軽くても、沢山の女の子を泣かしていても、本当は悪いヤツではない。ただ、こう断っておけば変に茶化したりしないだろうという考えだ。
 樹は、言い放った僕の顔をきょとんと見、そして席に着いて涼やかな顔をして窓の外を眺めているカズイを見た。そしてその目はまた僕の顔を見て、ふっと笑った。


〈第六番へ〉
 

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2007/04/07 (Sat) ガラスに映る空の青 4

(創作シリーズ:BL。苦手な人・解んない人は見ないようにー。)


 ――今のところ、ヤツは行き帰りにしか現れない。まぁ当然だろうな、校内に入ってくることは無いだろうし…。あと、行き帰りっつっても学校から駅までの間だけだ。学校から三駅も離れてるこの公園まで来ればついてこないから。

 カズイは昨日、そんなことを言っていた。そういうわけで、僕が『高木零緒』の恋人のフリをするのは学校から駅の間だけだ。そして僕は今、朝の通学ラッシュの中を、『高木零緒』と一緒に歩いている。こうして一緒に居ると、次々と小さな疑問が湧いてきた。それを、小声で隣を歩く『高木零緒』に問いかける。
「そういえばさ、犯人の顔とかわかるのか? どの辺までついてきてるってのがわかるんなら、そのくらい…」
「…いや、顔までは見えない。そんなに露骨に見ることも出来ないし、俺は全部気配で察してる」
 ………気配って…。ずいぶんと野生的だな、オイ。その気配が信用できるのかどうかはわからないが、まぁ今は気にしないことにしよう。
「あと、こうしてお前が金城東に通ってる間は妹はどうしてるんだ? 榊第二に通ってるのか」
「……まぁ、そんなところ。」
 曖昧な答え方だ。僕は眉を顰めた。こう答えてはいるが、実際は妹はずっと家に居たりするのかもしれない。ここまで過保護になっておいて、心配の対象である妹をたった一人で男だらけの環境に放り込むようなことをするとは、思えないからだ。
 そうなると、カズイは榊第二の方をずっと休んでいることになる。…出席日数なんかは、大丈夫なのだろうか。
「犯人、諦めさせるとか言ってたけど…捕まえはしないのか?」
「…誘き出せたら、それも、する。つか、そっちの方が今後安全だから、出来るならそうしたいと思ってる。」
 随分と妹思いなこった。過保護な感じがしないでもないが。
 駅から歩いて、登校する生徒でごった返す通りまで出た。金城東の生徒ばかりなのだが、この中に犯人とやらはいるのだろうか。ちら、と『高木零緒』を見やる。もうすでに演技に入っているのか、清楚そうな顔をして静かに歩いていた。本当に、女の子みたいだ。男のくせに。
「………今、居るのか?」
「居るな。ちょっと離れた茂みの中、かな」
 そこまで判るのか。大したもんだ。
 カズイの言葉をきいて、気づかれない程度にそっと後ろを見やった。五メートルくらい離れた茂み――フェンスで区切られた、壁のように高く伸びた沢山の枝――の中で、僅かに影が揺れた気がした。
 …居る。
「…ヤツは、今まで危害を加えてきたことはあったのか?」
「今のところは、ない。零緒も尾行られてるだけ、とだけ言ってたし、俺が零緒のフリをしてここを通るようになってからも、あっちはただこっちをじっと見つめてるだけだ」
 いつキレるかわからないな、と思った。犯人もその目的もわからない以上、今は下手に動かないほうが良いだろう。これからどうするのかは、学校に着いてからでも話そうか。
 基本的に、学校では恋人のフリをする約束はしてない。けれど、こうして登校を共にしているのだから、学校でもある程度言葉を交わすくらいなら別に怪しまれないだろう。
 …学校に着くと、ちょっと厄介なヤツが居るんだが…。それはまた、後で気にすることにしようか。


〈第五番へ〉
 

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