「どうぞ」
気がつくとさっきの店員が目の前に立ち、少女の目の前に紅茶を置くところだった。カタン、と静かにティーカップが置かれる。続いて、その近くに小さなポットのようなものが二つ置かれた。そのうちの一つには小さなスプーンがささっている。察するに、砂糖とミルクだろう。
「ど、どうも…。」
そう言うと、店員はにっこり笑んで去っていった。カップに口をつける。熱々の紅茶で舌を火傷しそうになりつつ、飲んだ。砂糖もミルクも入れずに、そのまま飲んだ所為かほろ苦かった。けれど、その味は何だか安心させるような味で。ふぅと一息吐いた。少し冷めるのを待とうかとカップを置いたところで、目の前に幾つかのクッキーが乗せられた皿が置かれた。頼んだ覚えはない。なんだろうと見上げると、そこにはさっきからよく目の前に現れる金がかった茶髪の店員が居た。
「あのぅ…」
頼んでないんですけど、と続けようとした言葉が遮られた。
「サービスです。お客さん、元気ないみたいなので」
そう言って店員は笑い、このクッキー、紅茶によく合うんですよ、と続けた。
「あ、有難う御座います」
「礼なんて良いんですって。……それより」
店員の笑みが、一瞬だけ、少し企んだものに感じた。そう思った瞬間。
「良ければ、お話、聞かせてもらえませんか?」
良ければ、何て言った割に、店員はさも当然のように少女の目の前の席に座った。店員と向かい合う形になる。
「名乗り忘れていましたね。僕の名前は千暁(ちあき)です。お好きに呼んでください。」
「はぁ…。」
やはり、例の歌手に似ているようにしか見えないのだが…名前も違うし、本人も違うといっているのだから違うのだろう。少女はそう思うことにした。
「えと、私は星野有紗です。…どっから話せばいいのか…。」
「説明しやすいところからどうぞ」
そう言ったのは千暁では無かった。声に見上げると、いつの間にかテーブルの横に一人の男性が立っていた。千暁がしているような丈の長い黒のソムリエエプロンではなく、胸元から膝下くらいまであるラップエプロンを着ていた。
「東堂さん」
千暁に東堂、と呼ばれた男性は有紗の方を見て微笑んだ。
「店主の東堂です。お話の続きをどうぞ」
この席に店主まで集まってきて、他のテーブルは大丈夫なのだろうか。そう思い店内を見回すと、自分以外の客が居なかった。
……なんだ、これ。
そう思っていたのが顔に出ていたのであろう。二人は有紗を見てくすくすと笑った。
「ご心配なく。怪しいもんじゃありませんから」
そう言って笑う千暁に促され、有紗は話し始めたのだった。
〈第三章へ〉
***
やっとこさ名前が出てきました。千暁くんと有紗ちゃんです。ついでに東堂さん。
しかし結構引っ張ってますね…。まだ本題に入らない(笑)
ソムリエエプロンっていうのはこういうものです。ラップエプロンは普通の肩ひもで吊るされてる(?)エプロンですよ。
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