2007/02/14 (Wed) アッシュカフェ《3》

 ことの始まりは、有紗の一言だった。学校に関するある噂がまことしやかに囁かれていた場で、言ってのけたのだ。
「バッカじゃないの。幽霊なんて居るわけないじゃん。高校生にもなって皆、そんなの信じてんの?」
 教室は一瞬にして凍りついた。有紗がことの重大さに気づいたのは、それから少し後のことだった。


「――ま、よくある話ですけどね。それじゃぁお前確かめて来い、なんて言われて。引き下がれないでしょう、ここまで来たら!」
「……けど本当は、幽霊が怖い?」
 千暁に穏やかにそう問われて、有紗は頷かざるを得なかった。
 有紗は臆病だった。目に見えない恐怖が大の苦手だった。けれど少女は意地っ張りな上に負けず嫌いで、真っ直ぐだった。
「……今日の夜。夜中の2時。私は学校に行かなきゃ行けないんです。そして…噂の真相を確かめなくちゃ」
 中央棟4階、化学室。そこには救われないままの魂が居る。20年前、授業の実験の途中。大きな地震が起こり、一人の少女だけが逃げ切れず、そこで命を落とした――。
「夜中の2時になると囁くんですって。助けて、助けて、怖い、助けてーって。」
 東堂と千暁は顔を見合わせた。そして――ふっと、二人同時に笑んだ。その意図がつかめず、有紗がぽかんとしていると、そこに東堂が語りかけてきた。
「星野さん。私達もそれに付いて行ってはいけませんか?」
「……はぁ?」
「貴女も、一人で行くよりはいいでしょう?」
 そう付け足したのは千暁だ。
 確かに、有紗もそうして貰えるのならそっちの方がいいと思っていた。だが、しかし…何の関係も無い人間に、そんな迷惑をかけるのは失礼だとも感じていた。それは少女の生真面目さ。責任感。……原因は、自分なのだと。
「ねぇ、有紗さん。」
 千暁はさっきと同じような穏やかさで言った。その声色が、例の歌手の歌声に似ているように感じられて、有紗には可笑しく感じられた。
「これは僕達のお願いなんです。……一緒に行かせてもらえませんか?」
 …そういう風に言われて、断れるほど有紗は器用な人間ではなかった。


〈第四章へ〉
 

***
やっと本題に入りました。…ここまでが長い…;
テーマはよくある学校の怪談ネタ。書いてる本人ホラー大の苦手です。アッシュカフェもホラーじゃないのでそっちを期待されない様…!
千暁はまだしも東堂のキャラがまだ固まってないのでまだちょっとあやふやです。むぅ。

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