2007/03/06 (Tue) アッシュカフェ《8》

 ―――…。

 ごう、と炎が燃えている。
 目の前には、少女。炎にまみれた、少女。そして、その少女をじっと見たまま動けないで居る、もう一人の少女――…。
 炎にまみれた少女が何やら言葉を紡ごうと口を動かすが、その口から声が漏れることはない。ただがくがくと震えを伝えているだけ。
 もう一人の少女は、それを見てただ真っ青になっていた。大きな音を立てて揺れる地面にふらついて、テーブルに片手をついている。今にも倒れそうな、少女。炎にまみれた少女は地面に座り込んでいて、ただもう一人の少女を見上げていた。今にも、その炎は少女を侵食し続けて…。
 炎にまみれた少女は、もう一人の少女に炎に焦がれた手を弱弱しく差し出した。もう一人の少女は、ふいにがくんと後ろにつんのめった。誰かに、手を引かれて。
 炎の少女に伸ばし返そうとした手は届かず、空をつかむ。少女は、連れて行かれた。第三者によって。
 その様をただ、炎の少女が、ぼうと見つめていた――…。

 …これは、誰の記憶?
 ふっと、少女は手の中の手紙を見た。その手紙の文面は、真っ白だった。
「……え?」
「その手紙は、恭子さんの思いです。貴女の今ご覧になったものは、貴女への恭子さんの思い――…。」
 東堂が穏やかな口調で言う。亜矢子はただ、それを理解しようと必死で聞く事しかできなかった。そうしているうちにも、少女の中に、暖かい波が込み上げてくる。たくさんの言葉が詰まった波。それは今にも、少女の心を溶かす。
 ――ごめんなさい。私がもっと、強かったら、あなたを助けることが出来た――…。
「恭子…。」
 目の前に居るわけではない。声がするはずもない。けれど、亜矢子の耳には、確かに聞こえた声があった。
 懐かしい、あの頃と変わらぬ声。あの頃亜矢子の名を呼んだように、亜矢子に語り掛ける声。
 ――ねぇ、亜矢子。
「恭子、どこにいるの? ねぇ…」
 ――私の一番の親友、亜矢子。ずっと、忘れないで…。
 しん、と、それきり、化学室は静かになった。穏やかに降り注いだ声が今はもう止み、静寂の中に沈み込んでいた。残されたのは。
「……亜矢子さん…?」
 思わず有紗が声を漏らしたときには、亜矢子の瞳からは涙が溢れていた。ほろほろと、傷だらけの頬を雫が伝う。
「違ったの、私、裏切られたわけじゃなかった…。恭子も、私の事、親友って…っ」
 振り払われたと思った手は、掴もうと伸ばした手。
「…………ありがとう……。」
 亜矢子が一言ぽつりと言った。溢れる涙を拭いながら。
 と、今まで黙り込んでいたトーヤが口を開いた。その瞳は、何故だか、とても真剣なものだった。有紗はその意味に気づかぬまま、それをみていた――…。
「……最後に一つだけ、聞いてもいい?」


〈第九章へ〉
 

***
物凄く微妙な続き方でごめんなさい…;
そしてトーヤがやっと喋ってくれました。トーヤを主役として書いたお話を前サイトで載せてたのでアッシュカフェでは脇に脇に、と思ってたら脇に押しすぎました。すみません。
そして有紗がまた食われてます…。亜矢子存在感ありすぎですね。どうしよう。
次の次で終わる…予定!

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