ふわふわ揺れる金の髪に、あたしは夢中。
「髪伸びたねーっ!」
「触るな」
「いやー、伸びると一段と触り心地が良く…」
「触るなっつってんだろ」
「そんなツンツンしないでよ、あたしとあんたの仲じゃない」
どんな仲だ、と突っ込む夕都に、美容師と客、と返す。あたしは座った夕都の後ろに立ち、右手に持った鋏をちゃきちゃき動かしながら夕都の頭を撫でてやる。この髪質が羨ましい。
「で、今日はどうする? どこまで切る?」
「…適当に」
「よっし、いっちょ刈上げちゃう!?」
「それはやめろ」
もう、クールなんだから。こんなのジョークよジョーク。こんな触り心地の良い金髪、短くしちゃったら勿体無いって。そんなことを言ってみると、鏡に映った夕都は可愛げもなく顔を歪ませた。嫌そうな顔しやがって、こんにゃろ。幼馴染のよしみでタダで切ってやるっつーのに。
「んーじゃ、ザクザク軽くしちゃうね。シャギー入れまくって良い?」
「ご自由に」
「ん」
許可も得たことだし、心置きなく切れるというもの。夕都の髪のひと房に鋏を入れる。
たまにこうして夕都の髪を切ることができるのは、あたしの密かな楽しみだったりする。いくら夕都のファンの女の子たちだって、こんなことはできないもんね。こんな特権、活用させてもらわないと損だもの。
「…なぁ、朱里」
「ん? なに?」
手元の雑誌をパラパラ捲っていた手を止め、夕都が話しかけてきた。あたしはその間も絶えず鋏を動かす。ぱさぱさと金の髪が宙に舞って、落ちて。鏡の中の夕都と目が合う。
「プレゼントで貰うとしたら、何がいいと思う?」
「は?」
ざく。
「うっわ、危なっ! …って、ごめん危うく短く切りすぎるところに…!」
「……。」
「で? 何? プレゼントだっけ。何、あんた誰かにプレゼントしたいわけ?」
「…まぁ。うん。」
ちょっぴりヤキモチなんて、焼いてみたり…なんかしちゃった、り?
夕都が誰かにプレゼントなんて、珍しい。
「んー? 女の子?」
「多分」
「何、多分て」
「いいから。女って何あげたら喜ぶんだ?」
女…。女の子かぁ。女といっても、年代によると思うんだけど。
「何? 何歳くらいの子?」
「…同じくらい」
「ん?」
「俺と」
夕都と同じくらいとなるとあたしとも同じくらいってことで。…夕都、もしかして好きな子でも出来たか?
……そうだとしたら、夕都には悪いけど、哀しい。
「…じゃぁ、ケーキとか」
「あぁ、なるほど」
「夕都料理上手いんだから手作りでもいいんじゃない? 女の子は大抵甘いものに喜ぶよ」
それがあんたの手作りとなると、夕都ファンの女の子達は卒倒するだろうね。…嬉しすぎて。
あたしも、ファンの子達と同じかもしれないけどさ。
「…でも」
「ん?」
「でも、朱里は甘いものあんまり好きじゃないじゃん」
…はぁ。そうですけど。
「別にあたしにあげるんじゃないんだからいいじゃん」
「…いや、」
「いや?」
鏡の中の夕都はあたしからふと目を逸らし、手元の雑誌に視線を落とした。
「朱里だから」
「……へ?」
「プレゼントあげんの、朱里だから」
さっきは切り過ぎそうになったけど、今度は手が止まった。
えっと、ちょっとまって、夕都くん。
「…………あたし?」
左手の人差し指を思いっきり自分に向けて、尋ねてみる。聞き間違いじゃないのか。あたし、なんて。
「そう」
でも、夕都はこともなげに頷いた。いやいやあんた、ちょっと。
あたしはプレゼント貰う覚えなんてないぞ。誕生日は過ぎたし、クリスマスも大分前に終わった。
「なんで? あたし、プレゼント貰う理由なんてないんだけど!」
「や、告白しようと思って」
「こ…くはくっ……?」
いきなり何を言い出すんだこの男は。あたしは相変わらず手を止めたまま、口をぱくぱくしたり。言葉にならない。
慌てるあたしとは裏腹に、夕都はさらりと言ってのけた。
「そう。愛の告白、するから。答え決めといて」
このポーカーフェイスめ!
…これは、あたしの夢じゃないよな? 夕都があたしに告白、するなんて。
「で、プレゼント。何が良い」
「ちょっと待って。つか、待ちなさい。何それ、どういうこと?」
「ずっと好きだったから」
「は?」
「気づかなかった?」
気づくはずも無かろうに。あんたのポーカーフェイスは完璧なんだから! その証拠に、夕都はこんな言葉を吐いてるときでも真顔だ。…なんだよ。なんなのよ。
「……って、本当に?」
「本当。」
「嘘じゃない?」
「こんな嘘ついてどうすんだ」
「か、からかってるわけじゃないよね?」
「俺がからかって遊ぶように見えるのか、お前には」
見えません。
ということは、これは本当に本当なわけで。そう思った途端、顔がどんどん熱くなってきた気がする。
なんだ。
「……ねー、夕都」
「何?」
「プレゼント、いらないわ、あたし。」
「……。」
鋏を手近にあった台の上にのせた。ついでに、夕都の目の前に立つ。夕都は座っているから、あたしが夕都を見下ろす形になる。夕都の茶色い目と、視線がかち合った。
「だって、あたしも好きだもん」
夕都は驚きもせず、あたしの頬に手を伸ばした。あたしは導かれるままに、夕都に近づいて。落ちて。
触れた。
***
えらい長くなってしまった…。
好きな人の髪の毛切るっていいなぁと思って。朱里みたいなノリの女の子好きです。お友達になりたい。
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